読書会LOG

R読書会/Zoom読書会

『ニキ』夏木志朋(ポプラ社)

Zoom読書会 2021.01.09
【テキスト】『ニキ』夏木志朋(ポプラ社
【参加人数】4名

<参加者A(推薦者)>
◆ネット上で評判がよかったので気になっていた。いじめ、異分子、生きづらさ、マイノリティはよくあるテーマだが、それをどう表現しているのか知りたかったので未読ながら推薦した。
◆起承転結、それぞれの部分がよくできている。導入部だけ読んでも面白い(万引きのシーンがとてもよく出来ている。また、「なぜ二木の秘密を知っているのか?」などの謎もある)。ほか、新人賞に応募しようと小説を書いている箇所を単独で取り上げても面白い。読者を飽きさせない設定である。
◆構成面でも非常に工夫されている。Ex)ラストのどんでん返しに、主人公が応募した新人賞の結果が関わってくるため書かれていない。P.114~の独白がいちばん大事な部分に組み込まれている。
◆小説ではなく、音楽など違うジャンルを扱ったほうが深みが出るのでは。小説だと作者に近づきすぎるので。
◆押し付けの比喩がなく、ちゃんと物語と関連性がある比喩を使っている。過剰な比喩になっていないのがよい。
◆小説を書く人間にとっては、二木が小説についてあれこれ言うところが身につまされた。

<参加者B>
◆途中まで非常によかった。最後のほうでバタバタ畳んでしまったという印象を受けた。
◆主人公と二木の駆け引きが面白かった。主人公のほうが切り札を持っているにも関わらず、二木がイニシアティブを取ってしまう→主人公がイライラする、という心理描写が巧みである。また、委員長が煙草を吸うシーンなど、読者が思い描いていた人物像から外すところも良かった。
◆しかし終盤、吉田の行動が行き過ぎだと感じた。ここまで過激な人間が多数派になれるものだろうか。
◆テーマだと感じたのは「付和雷同をどのように考えるか」。私は二木のキャラクターがすごく好きで、アイデンティティーを守るために周りと協調しながら、かつ主張を表に出しているというのが、彼の個性に合っていると思った。

<参加者C>
◆自意識過剰な主人公の視点で書かれている。地の文に書かれている主人公以外の人物の心情は主人公の想像であり、私からすると違うと、実際の心情は違うんだろうなと思う箇所もある。思春期特有の自意識がとてもリアル。本当に中二病だと、中二病は書けない(文章を書くには客観性が必要)と思い知らされた。
◆別の読書会で『コンビニ人間』(村田沙耶香)を扱った後で、偶然生きづらさを扱う作品が続いた。そういう作品が受け入れられる土壌があるのかなと思う。私は浮いてしまう側と「普通」に迎合している側、どちらの立場もわかるので複雑な気持ちになる。
◆作中の小説を書く描写にあるように、「編み物のように」綿密にプロットが立てられていると感じた。たとえば、序盤に主人公が万引きをしたことが、終盤の展開で活かされるなど。
◆他の方の発言を受けて:私も過剰な比喩がないので読み進めやすかった。
◆余談:帯が目を引くが、読むと「帯と違う」と思ってしまう(帯の内容は間違いではないし、実は核心だが)。帯だけ読んだときには『悪の教典』のような話か? と思った。

<参加者D>
◆まったく前情報なしで読んだ(電子書籍で購入したので帯もついていなかった)。率直に言ってかなり面白かった。
◆小説についての話もあるが、私は小説をまったく書かないので、その立場からの感想になる。
◆学校の描写は身につまされた。中高生のスクールカーストについてよく研究してあると思った。とくに、主人公がクラスに溶け込む訓練(流行りの曲を聴く、など)をしているシーンが刺さった。私も仲間内で本当にやっていたことがあるので(ここまでのコンテンツは大多数に受け入れられるが、ここからは受け入れられない…という感じの)。
学校内ではピラミッドがあり、青春というものを享受するには、中間層であることを維持する努力が必要である。中間層を外れると最下層に落ちてしまう。上に行けない者が上に行こうとすると領空侵犯で最下層に落とされてしまう。
スクールカーストを俯瞰的な目で見ることができる人の視点はエンターテイメント性に富んでいた。
主人公と二木が対になっているが二人はよく似ている。同類であるため、同じ極が反発しあるように嫌悪しあう。憧れ半分、憎しみ半分のバランスがとれている。
また、委員長の存在で、カーストとはローカル的で実は脆いものだということも描かれている。
◆凝った比喩は少なく、色に関する比喩に力点が置かれていた。主人公が持つ共感覚を表すもので技巧的な工夫を感じる。ex)緑色は秩序、あるいは嫉妬の象徴?
◆結論はもやっとしていたが、小社会でのもやもやを経験して社会へ出ていく、ということだろうか。

 <フリートーク
◆帯に書いてあるのはありきたりのパターンなので帯通りの内容でなくてよかった。
◆前情報がないほうが先入観なく読めるかも。
◆“えぐさ”がない。
スクールカーストの下層は、問題がある層、名前を出していい層である。→最下層の存在があるから中間層が安定できる。時代の空気を経験した者としてはリアルに感じた。
この作品は常にそれぞれが役割を演じているスクールカーストの裏で、先生と最下層の生徒が丁々発止しているのが面白い。
◆主人公は「アスペ」とレッテルを貼られているが、その主人公も二木に「ロリコン=悪」というレッテル貼りをしている。しかし、「委員長」が煙草を吸っていることからもわかるように、レッテルを剥がすと皆たいしたことはない、というのが面白さのひとつ。
◆閉塞感を扱う作品は山のようにあるが、その中からどうやって抜けるか?:
吉田の立場は、えげつないことをし続けなければならないので実はしんどい。しかし、主人公はそれを眺めていられる、ある意味安全圏にいる。→単に閉塞感を書いた作品ではない。
それが、閉塞感を書いただけの作品との差ではないか。
スクールカーストの描写や、ラストの描写はとてもよかった。→「N」が手に入った媚び猫が鳴くところ:主人公と二木が一体化することによって正常化されるという比喩
◆なぜ「N」が抜けているのか、なぜ二木がニューバランスを履いているのか、気づくと面白い。