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『コンビニ人間』村田沙耶香(文春文庫)

R読書会@オンライン 2021.01.03
【テキスト】『コンビニ人間村田沙耶香(文春文庫)

◆タイトルが挑発的。底辺的な労働に就いている人間の話を想像させるが、それをどんどん裏切っていくストーリーだ。
◆主人公が「普通」から逸脱しているという設定だが、「普通」とはなにか、「治す」とはなにかという根源的な意味について考えさせられる。
◆コロナ前にこの作品を読んだときは「人間は画一的に押し込められるのだな」と思っていた程度だったが、コロナ後は、人を監視したり、非難したりするということが、とても深刻な問題だと感じられるようになった。
◆白羽が、コンビニでの仕事や従業員を馬鹿にしていることは現代的でシンボリックである。読書会のメンバーが、白羽についてどう考えたか聞いてみたい。
◆皆がどういう風にこの作品を読んだか聞いてみたい。ユーモアがある面白い作品ととったか、とても怖い作品ととったか。私はとても怖い作品だと思った。登場人物は一様におかしい。もっともおかしいのは主人公と白羽だが、主人公から見ると普通の人たちもおかしい。本当の意味でまともな人は一人も出てこない。
◆私も怖い作品だなと思った。「スタンダード」とは何かと問いかけている作品。現在、世界はコロナの中で何が「スタンダード」なのかを探り合っている状態だ。
村田沙耶香が好きでいろいろ読んでおり、感覚が特異で変わった作品を書く作家だと思う。例えば『地球星人』という作品は、文章自体は普通だけどぶっとんでいる。
コンビニ人間』も文体は普通で、読み始めたときは普通の小説だと感じるが、読み進めると、どんどんヘンテコになっていく。
村田沙耶香の作品は「普通とはなにか」がテーマとなっている。主人公が反抗的な態度をとったり自己主張したりする小説も多いが、『コンビニ人間』の主人公は「普通」になろうとそれなりに頑張っているのがキモ。「自分」が周りに溶けているとも思えるが個性がないわけでもなく、アンチヒーローのようさえ感じる。
◆コンビニの美しい描写(「光る箱」「病院のガラス」という表現など)の感性がすごいなと思った。
◆「異様性」と「普通」が地続きになっている作品。
◆普通とはなにか? →自分と違うこと。
たとえば結婚している人は結婚していない人を、子どもがいる人は子どもがいない人を「普通」と思わないことがあるように、「普通」とはとても感情的な基準である。
◆いろんな人の話し方やファッションを真似して、うまく周りに溶け込んでいると本人は思っているが、実は綻びが出ているというのがよく書けている(服の趣味が別人のようになったり、自分以外の人が飲み会をしているのを後で知ったり、など)。白羽は周りが見えている。
◆自分の中にも、主人公や白羽、周りの人のようなところはある。読んだ人が「自分のことだ」と思う作品。だからこそこの作品がいろいろな人に支持され、24ヵ国語に翻訳されるのだと思う。
◆24ヵ国語に翻訳されることについて:日本独特の感覚かと思ったが、そうでもないのだろうか。
◆『コンビニ人間』とコロナ時代によせて:個性が消えることによって得しているのは権力者側である。マスコミも一辺倒の報道をするので統治しやすくなっている。どこかで抵抗し続けなくてはならないと思う。
◆主人公はコンビニとは別の「ノーマル」からの管理に対して嫌悪を抱いている。しかしコンビニは「管理」そのもの。人間とは別の、もっとも管理された、無機質なコンビニという世界に同化することによって希望を抱いているのが本当に救いなのか?
◆レッテル貼りで縛ってくる世間(作中では妹、同級生、ほかの従業員など)に対し、人間性を度外視して「行動」で縛るコンビニは、主人公にとって安心する場所なのだろう。
◆筆者は、家族やムラ社会の価値を認めながらも、それを押し付けることにも抵抗している。
◆P52「なんか宗教みたいっすね」~「そうですよ」からわかるように、これはコンビニに身を捧げたシスターの話である。
◆主人公には性嫌悪的なところもある。性をカジュアルに、娯楽として消費するものへの対比が描かれている。
◆人格とか性別だけでなく機能だけで測られたい主人公の話。現代社会はそこへ向かいつつもあるが、それは怖いと私は思う。
フェミニズムと本能主義の対比も描かれている。一歩進むと、差別の構造みたいなものも表れている。

 

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