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R読書会/Zoom読書会

『1984』ジョージ・オーウェル、田内志文訳(角川文庫)

R読書会 2023.08.05
【テキスト】『1984ジョージ・オーウェル、田内志文訳(角川文庫)
【参加人数】9名
※オンラインでなく対面形式でした。

<推薦者(参加者H)>
◆近頃、R読書会で『1984』の名前が出て(『絶縁』収録のディストピア的世界を描いた「無」「ポジティブレンガ」に関連して)、読んでみたいと思い推薦した。
また今回、Aさんが遠方から来ていただけるとのことで、読みごたえのある本がいいかなと思ったので。
◆今の社会に合う作品、というと残念な意味になるが、現在の日本を含めた世界がよくない方向に向かっている気がするので、そういう視点でも得るものがあるのでは。皆さんの意見を伺ってみたい。

<参加者A>
◆細かいところは参加させてもらいながら話し合いたい。まずは、とりとめのないところで。
◆海外小説でSFということもあり、硬い部分もあって読みにくかったが、ディストピア小説に触れた経験が少ないので興味深く読んだ。
◆人が作った社会的な話は、違う時代の世界や社会にも引っかかる。今の世界を見直すという観点で、心に引っかかる部分があって考えさせられた。作者は全体主義がいかに怖いかを描きたかった。そういう意味ではすごい勢いで書かれている。
◆ストーリーで気になったところ。三部に分かれており、第二部ではジュリアが出てきて恋愛小説みたいになって……ユートピアじゃん! 真冬に炬燵でアイスを食べてるように、暗いところで幸せ、みたいな。あんまり好きじゃなかった(笑)。
◆すごいと思ったのは心理描写。教育やテレスクリーンという機械などを使って心理的なことを強制していく。主人公は現代的な感覚を持った普通の人。そういう人が洗脳され、取り込まれていく怖さを見事に描いているのが、ディストピア小説の代表作と言われる所以なんだなと思った。
◆一番心に残ったのは三部の最後、ウィンストンはネズミに鼻を食いちぎられそうになり、自分がこれまで裏切らなかったジュリアを衝動的に裏切ってしまう。暴行に暴行を重ねられて……全体主義の怖さが詰まった部分だった。

<参加者B>
◆いろいろな要素があるからひと言では言いにくい。一般的に言われているより、ずっと難しい小説。「現代に通じる」とか、「未来を予見した」とか、それだけではない。
◆作者は共産主義にはシンパシーを感じており、全体主義まで達したところに反発しているというアンビバレントな感情が窺える。
◆ビッグ・ブラザーの二重思考も、党を打倒するために地下活動をしているゴールドスタインの著書も、外部から見ている読者からすると区別がつかない。
主人公は、自分を尋問する恐ろしい人物に憧れと親愛を持ち続けており、ある種、倒錯的なものを感じる。
◆ウィンストン、ジュリア、オブライエン、ほとんどこの三人でのドラマ。後半は拷問を介したウィンストンとオブライエンの対決。
◆結局、最後は廃人のようになって〈栗の木カフェ〉にいながらビッグ・ブラザーを愛するようになった皮肉さ。この帰結をどう受け取ればいいのか。一般的にいろいろ言われているようには受け取れない。

<参加者C>
[事前のレジュメより]
第二部(P343)まで主人公ウィンストンの日常が描かれる。
 ・彼は革命党の党員。政府機関で働き、出版にたずさわっている。
時代は一九八四年。舞台は資本主義体制が崩壊し、革命党の独裁体制下にあるロンドン。
衝撃を受けたもの
 ◇「テレスクリーン」
  巨大なスマホのようなものだろうか。受信と発信が同時にできるすぐれもの。
  各戸に配置され、国民に一方的に情報を流し、扇動する武器になっている。
  「オンライン」がさらに進化したものだろう。
 ◇「二分間ヘイト」
  テレスクリーンの前にいた者はしっかり視聴するよう命じられている。
  これに参加した者が熱狂的に同調するよう巧みに編集された映像が流される。
 ◇「表情罪」
   監視者あるいはテレスクリーンが「ふさわしくない表情」とみなせば罰せられる。
第三部
 ・ジュリアと逢い引きしているときに主人公は逮捕される。
  罪状は「真実省」の指示通りに仕事をしなかったこと。些細なことだ。
 ・尋問と拷問をするのは残忍なオブライエンという男。
  尋問と懲罰の目的は、囚人の思想を変容させるため。
  「殺してしまう前に我々の一員にすること」
 ・囚人の「人格再統合には、三つの段階がある」という。学習、理解、そして受容である。
  最終的には処刑するのだが、内心から党に服従するまで懲罰が続けられる。
  拷問の苛烈さは、遠藤周作氏の『沈黙』よりもすごかった。
 ・この作品が発行されたのは一九四九年(七四年前)なのに、作品の世界と現代の世界がそっくりなのだ。これにはびっくり。

[以下、読書会にてCさんの発言]
◆最初は一部、次に二部……と読み進めた。今回は飛び飛び読むことはしなかった。300ページほどはウィンストンの日常。全体主義によって支配されている世界。つまんないな、退屈だなと言いながら読んだ。P199、ロケット弾が飛んできて、漆喰に覆われるところから面白く感じた。
◆衝撃を受けたのはテレスクリーン。巨大なスマホみたいなものかな。権力者は人民を監視するなど、非常に上手に使っている。貧民の自宅にはないが街角にはあるのだろう。
◆二分間ヘイト。これは恐ろしい。教員時代の同僚にこの手を使う人がいた(わざと不安にさせ、子どもを思い通りに動かす)。作中では、非常に工夫して国民を操り、同調していない者を炙り出している。
◆表情罪。疑うような顔などは、不適切な表情として罰せられる。
遠藤周作『沈黙』ではクリスチャンが棄教を目的とした拷問を受けるが、その拷問と、この作品の懲罰は違う。信じているものを棄てるだけでなく、党の考えを受け入れ、尊敬するところまで変えなくてはならない。
私は、オブライエンが出てくると固まった。人間の尊厳をぐちゃぐちゃにする――心理をコントロールして自白させ、処刑されてもいいと思わせる。自白させるだけではなく、すべて思い通りになってから殺すという恐ろしい懲罰。
◆74年前に発行された本なのにオンラインのようなことを描いており、よく考えたなと思う。小説は絵空事を真実だと思わせるものだとすれば、作者は成功している。

<参加者D>
◆小説という形を取っているが、作者が「これを言わなければ死ねない」と思って書いたもので、作者の考えが前面に出ていると感じた。
◆敗北感のある終わり方だった。大きな体制が人間を支配する方法はさまざまだが、作者は、過去を消すとか文章を変える、言葉を無くす、そういう方法での支配が恐ろしいやり方だと思って書いたのでは。
◆(書かれた当時の)社会が今とは違う。ソ連も中国の共産主義も、イギリスやアメリカから見ると「理解できない」「支配できるのか」など、いろいろ考えたのだろう。
◆ゴールドスタインの本の引用がゴシック体で書かれている。その部分こそ作者が書きたかったことでは。正しいと思って書いたがオブライエンに論破され、もどかしい。

<参加者E>
◆作品として単純に面白い。長かったが映画を観ているような気分で読んだ。
◆訳者あとがきにもあるがアイディアの素晴らしさ。思想警察、二重思考、二分間ヘイトなど、全部現代にも生きていて面白い。
全体主義、過去を改竄する政府、歴史を塗り替えていく……恐ろしい。卑近な例だと、書類をシュレッダーにかけたり黒塗りにしたり、姑息だが大きく言うと歴史を改竄している。日本は全体主義ではないけれど韓国や中国でのことに関しては歴史に目を瞑っている。どの国もそうかもしれないが、ご都合主義の恐ろしさ。私たちは監視しなければならないが監視されている。
B:実際の状況は『1984』より進んでいる。政府に監視者がいるのではなく、市民が(自発的に)監視し始めている。訳者あとがきにもあるが、自分が気に入った情報を集めて、気に入った世界を集めて、違うコミュニティへ攻撃をかける。国が強制しなくても、好きでやっている。無意識的に。この作品ではプロレは生きる実感を持っており権力に騙されてはいないが、現代の現実ではプロレが権力ごっこをしている。作品の中より悪い。
実際、現代日本において権力の監視は強くない。思想犯はない。少なくとも表向きは。思想が権力と異なっているというだけで拷問にかけられないという点では作者が危惧したより酷くはないが、別の面で酷くなっている。
E:作者は全体主義が恐ろしいということを言いたかったのだろうが、イギリスは自由だったのか?
B:イギリスも左派の力が強くなり、自由主義を進めることへの危惧はあった。
また、昔は日本でも思想犯罪があった。秘密警察である特高特別高等警察)もあり、拷問で亡くなった文学者もいた。全体主義にはなっていないが。
E:でもSNSで叩いたりしている。
B:政府が仕向けたわけではなく自発的にやっている。そこは作中に書かれたようになっている。
G:匿名の人が不満のはけ口として、そこにぶつけている。
◆(現代は)語彙が貧弱になっているのを感じる。「きもっ」「やばっ」とかですべてを片付けるから。タイムラインに流れてくるツイートを見てもそう思う(自分のものも含めてだが)。それはニュースピークだな、と。付録として辞書が載っているが、よくそんなややこしいこと考えたなと思う。
◆Bさんも仰った、最後の「彼はビッグ・ブラザーを愛していた」、すごくショックだった。最後で希望の日差しが見えるのかと思ったらシャッターを下ろされて愕然とした。
◆作中に仕掛けもある。読んでいて、ジュリアは絶対ハニートラップだと思って(笑)。訳者あとがきを読んで、浅くて可哀そうな子だったんだ、と。これも面白いなと。
◆ウィンストンが裏切るまで結構しぶとい。なかなか寝返らないけど、思わぬことでころっといってしまう。人はしぶといようで、ウィークポイントを突かれるとちょろい。人間の脆さを感じた。
ジョージ・オーウェルは『1984』を書いて半年ほど後、46歳で亡くなっている。

<参加者F>
◆最初から面白かった。世界がなんでこんなに汚いのかな、って。映画の『ブレードランナー』(1982年、アメリカ)みたいで。
◆言葉を無くしていくのが怖いと思ったが、現実では勝手に減っていっている。名詞は増えているけれど、動詞は減っている現代と同じ。
◆こういうラストになるのか、もうちょっと頑張ってほしかった。
B:実際、こんな拷問をされたら耐えられないと思う。
G:私、一秒で終わる(笑)。
F:また太らせるって残酷。
G:鏡を見せるところが巧い。
F:太ももが膝より太い……確かに痩せるとそうなるな、と思った。

<参加者G>
◆最初は読みづらかったが、徐々に作品に入っていった。現在に通じるものとして恐怖を持って読んだ。
◆『1984』より先に、『検証G.オーウェル1984年」』(グロビュー社)が届いた。
それによると、レーニンの演説の写真や、新聞の内容も捏造されていたそう。
あと、世界のビッグ・ブラザーが挙げられていたり……。
それから原文も載っていて、もともとこういう言葉だったとわかるから、両方一緒に読んでいったら面白かった。
日本の事も書いていて、これが良かった。韓国と日本の歴史の違い。
◆私はこの作品を読んで、未来への恐怖よりも、今現在への恐怖を感じた。アメリカの統計ではコロナによるアジア人差別の被害者の68%が女性。また、もっともアジア人差別の報告があったのはカリフォルニア州で、全体の45%と圧倒的に多い。
※参考:日本貿易振興機構 ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース 2021年03月23日付より https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/03/d27ee8a4faba9b2f.html
カリフォルニアは行ったことがあり、とても明るく軽いノリの場所だと思っていたが、そんなことになっている。女性がこの作品を読むと、差別なども怖く感じる。
女性が元恋人に殺害された事件の話を高齢男性としていると、その男性は「アホみたいな顔をしているから当然だ」と言った。女性は軽んじられている。発言がどう受け止められるか、普段からびくびくしていて、2+2=4だと言えないことがある。
私も、所属している場所で提案をしても、男性が上層部を占めていて全然進まない、伝わらないもどかしさを感じている。
◆小説学校では「言葉は短く、わかりやすく書け」と言われるし、流行の音楽のイントロも短くなっている。現代は、物語をゆっくり展開させるのではなく、ちゃっちゃと進めろという時代だが、(昔のように)じっくり味わう作品もいいと思う。

<参加者H>
◆「口述筆記機」から現代の音声入力を、機械で歌を生み出す「作詩機」からAIを連想した。また、テレスクリーンはメディアかなと思った。作品が書かれた当時はもうテレビがあったので、マスメディアによる情報操作かと考えていたが、訳者あとがきに「SNSと重なる」と書いてあるのを読んでなるほどと思った。SNSは憎悪を増幅させる。優れた文学作品は予言だと実感した。
◆P232、外国人の血筋であると疑われた老夫婦の家が放火に遭ったというエピソードから、日本で起こった福田村事件を思い出した。1923年、関東大震災後の千葉県で、朝鮮人だと見なされた香川県の行商団が殺害された事件。
◆P238。ジョージ・オーウェルは、記憶の書き換えというモチーフを『動物農場』でも書いていた(この読書会でも以前取り上げた)。記録が書き換えられ、記憶も置き換わってしまう恐怖。
◆P255。「個人個人の人間関係を重んじ、完全なる無力感を表す仕草や、抱擁や、涙や、死にゆくものにかける言葉といったもの」……これが人間にとって大切なもの、人間が人間たる所以ではないだろうか。毎日ご飯を食べて、トイレへ行って、眠って、これを繰り返すだけなら動物と同じだが、人の死を悼み、想いを伝えていくことは人間だけができること。恋愛の描写がたくさんあったのが不思議だったが、読み終えて、“人間らしさ”を書こうとしたのだなと腑に落ちた。人間性を削ごうとする行為は、本当に恐ろしいと思う。
◆P459~の付録。言葉をなくしていくのは言葉狩りを思わせる。言葉がなくなり、概念が消えてしまえばそのことについて考えられなくなってしまう。

<参加者I>
◆こういう小説を読むと体に負担がかかるので、あまり読んでいないが、現在と通じるものがあり、今が怖い、未来が怖いという気持ちを持った。海外では事実と違うことが報道されているというが、日本でも言論を監視されているのではと想像して、読むのが恐ろしかった。
◆街角にテレスクリーンが存在しているかも。会って話した人にも録音されているかも……怖い時代に入ったと、小説を通して意識した。時代が変わっても人間の本質は変わっていない。権力闘争もある。私ははっきり物を言うけれど、言わない人のほうが怖い。

<フリートーク
【権力というものについて】
I:私は、NHKの『ダーウィンが来た!』を観るのが好きだが、そこなんじゃないかと思った。人間そのものが動物なので、相手に勝ちたいという本能がある。
B:生物として持っている「生きたい」という意志が社会に反映されているというのはあるかも。
G:権力なんて欲しい? P405「権力の目的は権力だ」……こうとしか書けなかったのでは。そう言わざるを得ない権力って何だろうと疑問に思う。
F:権力を欲しがる人の頭を割ったとき、何が出てくるのだろう?
D:女性には理解できないのでは。権力を求めるのは男。女性とは発想が違う。
G:男性がいなくなったら戦争はなくなる?
D:戦争の質が変わるとは思う。
G:地域での話。家の場所がわからなくて近くの人に尋ねたら「あの借家の家」と、わざわざ「借家」とつけて、蔑むように言う人が2人もいてショックだった。人間は上下を決めたがる。
A:ヒエラルキーを保つために戦争があって、余剰の物質をなくして貧困を与えて……
B:支配構造を永続させるための方策。
日本も明治に四民平等になったというけれど実際はなっていない。今も、戦後しばらくの時期より階層化し、固定化してきている。底辺の貧困がひどい。
E:中間層がなくなっていますよね。
G:差別がひどくなっている。入管でも、外国人女性を病院に連れていかない。人間と思っていない。
B:日本の入管は昔からですね。
G:省庁の何が変わる? (国民に)自由に言わせることで毒抜きして、それでも社会は全然良くならない。
B:現代の日本に拷問はないけれど取り調べがひどい。この国には、解決しなければいけない人権上の問題がたくさんある。『1984』に書かれているほどひどくはないが。
G:皇室継続の世論調査もしないし、批判も受け付けない。暴力、差別だと思うが、若い人たちは関心がない。
B:若い人たちは関心がないことにリソースを割きませんから。
G:政府が、議論が沸き起こらないようにしている。
E:ニュース番組でもスポーツのことを大きく扱って、政治のニュースはあまり流さない。
G:楽しいことを提供して(国民の)目を逸らさせている。
B:潤いは必要ですからね。作中のウィンストンも女性の裸に潤いを見出した。

【西洋的な考え方】
G:作中で、党が子どものいない夫婦に別居を奨励しているのはどういう意味?
B:作中の社会では、ビッグ・ブラザー以外への愛情を持ってはいけない。セックスで満たされるとそこで愛を得てしまう。ビッグ・ブラザーへの愛以外は必要ない。
G:キリスト教と一緒ですね。
B:(作品は)キリスト教の構造に影響を受けている。
E:統治しようとするなら宗教。
B:私は、ウィンストンが拷問を受けるところはキリストの受難だと見た。ジュリアがマグダラのマリア、〈栗の木カフェ〉にいた3人の男たちが東方の三博士。しかし、ウィンストンにイエスの役割を負わせても人類を救えない。
E:でもウィンストンは神(=ビッグ・ブラザー)を信じて、神(=ビッグ・ブラザー)に殉教した。
(作者は)本当に全体主義を糾弾する気があるのか。神への愛を捨て生きるウィンストンは近代主義的。近代のヒューマニズム全体主義として蘇った神の愛に帰結する。西洋人にとってキリスト教がトラウマになっていると感じた。
G:新約聖書旧約聖書は思想的に異なっている。
B:エスユダヤ教を改革したいという活動家だった。
I:私はクリスチャンなんです。信じたほうが心は平穏。それが宗教のいいところ。あまり信仰は深くないけれど、持病で心臓が苦しくなったとき薬が効くまで神に祈った。
G:無宗教の日本人も神に祈りますね。八百万の神
B:日本人は自覚はないけれど神を持っている。
G:カルト宗教に騙されている人には女性が多い。誰もが騙されるわけじゃない。孤独な人が騙されやすい。孤独な女性が多いんです。
I:誰にも言えない悩みがある。
A:私はいい宗教があれば入りたいなと思っている。
全体主義が悪という前提で話しているが、全体主義のいいところもあると感じていて。今の日本は温すぎる。たとえば学校では、担任が厳しいと生徒同士の仲が良くなる、先生が頼りないと生徒同士の仲が悪くなるけれど、今の日本は後者であるような気がしている。行き過ぎたらよくないけれど、どっちつかずで終わっている。ナショナリズムファシズムも利点があるし、自由主義にもいいところがある。
G:私の息子に、日本が侵略されたらどうするか尋ねたら「逃げる」と返ってきた。愛国心がないんですよね。P112、「原始的な愛国心」を植え付けるとあるが、ナショナリズムってどうなのよ、と。
B:これはこの作品が書かれた時点での愛国心
G:ウクライナから避難してこられた方とお話しする機会があったけれど、「(戦っている人たちが)全員死んだら私も戦う」と仰っていた。
I:この戦争の狙いは何でしょう?
B:ゲルマンを統一したかったヒトラーと同じ。ゲルマンがいたと考えている場所を取って生存権を確保しようとしている。
E:豊かな領土も火種になりますね。ニジェールなども鉱物が豊富。
B:小説に書かれているとの同じ。南北アメリカとイギリス、アフリカ南部、オーストラリア南部がオセアニア。ロシアとヨーロッパがユーラシア。中国や日本を中心とした東アジアがイースタシア。
すごくイギリス的な小説だと感じる。登場するアジア人は、牙でも生えているような描き方をされている。当時の標準的な白人男性としての小説。女性と肌を合わせても、彼女と会話が噛み合っていない。男性からは拷問を受けるが、彼と会話が噛み合うことを喜んでいる。女性は対等でないという考え方が窺える。
G:地政学戦争画がわかるという本を買って読んだんだけど全然わからなかった。
E:戦争があるほうが都合のいい層がある。兵器が売れるし……延々と続いている。
B:なくそうとして国際連盟を作ったけれど上手くいなかった。
E:それは西側の考えですよね。

【作中の生活】
G:小説で書くものがなくなったとき、ディストピアを書こうと思って。どの家にもテレビがあって思想を植え付けることを言い続ける話にしたのだけど、発想が同じだった。寝言まで監視されていたり、複雑な言葉がたくさんあって……(小説を書く者として)尊敬しちゃう。質の悪いジンは勘弁してほしい(笑)。
A:サッカリンとか食べてみたい。
D:サッカリン、今は禁止されましたね。
G:金属臭のシチューなんかもいやですね(笑)。

【作品の意図するところ】
I:作者はどうしてこの作品を書いた?
A:作者は労働党党員。全体主義に対して批判したかった。
G:イートン校を卒業後、ビルマの警察官になった。支配する側――人を人と思わない側になって……
B:この作品からは権力に対するアンビバレンツな感情が窺える。憎んでいるのに固執している。
G:(主人公は)拷問でそうなったのでは?
B:ウィンストンは最初からオブライエンに興味を持っている。望んでいない立場や位置に貶められたが、それが主人公にとって救いであったという皮肉。英国文学には皮肉、諧謔精神みたいなものがある。現実を冷徹に見る、というような。
A:反性交青年連盟とか、笑っちゃうところもありましたしね。
E:映画『時計じかけのオレンジ』(1971年、イギリス・アメリカ)のアレックスのように、注射を打たれてふにゃふにゃになったほうが幸せと思うかもしれない。ウィンストンも判断力がなくなって、人間性を破壊されたほうが生きやすいかも。
G:それはそう。日本だって、枠に入っていたほうが、体制側についているほうが楽。
A:ポピュリズムに乗っていたほうが歯向かうより楽ですね。
B:ウィンストンは記録を改竄する仕事をしており、そのことに楽しみを見出していた。権力を行使できることに。それでも党を悪だと思っていた。「俺だってやれる」と、思春期に父親に歯向かうように。「ビッグ・ブラザー」と言っているけれど父性の象徴。
オブライエンに惹かれるのは、自分もそのようになりたかったから。でも拷問を通して、あそこまでなれないと思い知らされ、納得がいった。
釈放後、それまで勤めていたところより閑職に追いやられ、給料は増えたが生活水準は落ちた。慈しみながら見下していたプロレと同じになって救われた。自分も権力側に行けると思っていたが諦めて、青年期にケリがついた。
作者は、出版社から「付録 ニュースピークの諸原理」を削るように言われたとき断固反対した。付録まで含んだ上でこの作品ということ。付録の時間軸は本編よりずっと後、イングソック体制が崩壊したのち。ビッグ・ブラザーは打倒されたんだと末尾でほのめかしている。当時のオセアニアではこういうのを強いていた、という回想。末尾のものによって本編をほのめかす手法はボルヘスも用いている。
G:以前、読書会で取り上げた『動物農場』のほうが読みやすかった。1984』は登場人物は少ないけれどややこしくて回りくどい。現代ではだらだら書いたら読みづらいって怒られる。わかりやすく、短く書かなくちゃ。
A:キャッチーなのがウケる時代ですね。動画もTikTokとか、短いほうが見られる。それで裾野が広がるならいいと思う。
E:二分間ヘイトみたいな……
B:文の構造を複雑にすべきではないと言われますね。主語と述語を離すな、とか。
E:でも大江健三郎とか複雑な文体ですよね。
G:フォークナーとか。私も自然豊かなところで書いてたら、だらだら書きたくなる(笑)。
A:だらだら書いてある作品が好きな人もいますしね。『1984』のゴシック体部分(ゴールドスタインの本)、私は好きだけど苦手な人もいると思う。
B:ゴールドスタインという名前はユダヤ人の名前。そこも意図的。
A:骨太の作品ですよね。
E:単純に全体主義がだめというわけではない。
B:欧米式知性を突き詰めるとこうなるのでは。
E:欧米ってダブルスタンダードですよね。

 

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