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R読書会/Zoom読書会

『動物農場〔新訳版〕』ジョージ・オーウェル、山形浩生訳(ハヤカワepi文庫)

R読書会@オンライン 2021.09.25
【テキスト】『動物農場〔新訳版〕』 
      ジョージ・オーウェル山形浩生訳(ハヤカワepi文庫) 
【参加人数】6名

<推薦者の理由(参加者F)>
文学学校へ通っていたとき、こんな作品があると教えてもらって手に取った。童話を読んでいるように面白く読めたが、権力を痛烈に批判しており、こういう形で言いたいことを言えるんだと衝撃的だった。
(私たちが普段書いている小説と)作り方は全然違うけれど、書くときの参考にできるかと思い、そして純粋に作品として面白いので薦めさせていただいた。

<参加者A>
◆とても読みやすく、最後まで一気に読めた。書かれていることはソビエト連邦社会主義への批判であり、社会主義そのものだと思った。寓話の形にすると、他の国に当てはめることもできるし、言論の統制が厳しい場所に当てはめることもできるし、読む人の現状にも当てはめることもできる。ただ面白いだけではなく普遍性がある。
◆以上のようなメリットの他に、寓話にする必然性はあったのかという気もする。社会主義をそのまま具体的に書いてもよかったのではないか。ジョージ・オーウェルソ連にいたわけではないので、敢えて寓話にした意味とは?

<参加者B>
◆社会風刺的な作品が好きなので、大変面白く読ませていただいた。ジョージ・オーウェルの作品は初めてで、『1984年』などディストピア作家のイメージだったが、『動物農場』を読むとコミカル社会派という感じ。悲惨だけど明るい。
◆作者は社会主義や人間の闘争に絶望していたのか、それとも希望を持っていたのか?
◆忠実なボクサー=思考停止した直情型の人間は政府にとっては格好の餌食。可哀そうだが最後に救いはあっていい。それが作者の優しさだろうか。
◆自分たちで作った国で暮らそうと社会主義を打ち立てるが、権力の座についた瞬間に腐敗していく。権力の構造が無限に繰り返されているのが無駄なく描かれていく。このループは永遠に続くのかと悲しくなった。
◆ハヤカワepi文庫の山形浩生の訳本には、序文から解説(訳者あとがき)まですごく詳しく載っており、最後まで読むと作者の意図がわかる。

<参加者C>
◆私は角川文庫の高畠文夫の訳本(1972年発行、1991年に改版)で読んだ。こちらもオーウェルの生涯など解説が充実しており、わかりやすかった。
ジョージ・オーウェルは『1984年』がよく話題に上るが私はまだ読んでいないので、(この『動物農場』を読んで)そちらも絶対読まなければと思った。
◆こういう形で象徴的に書いたから少ない分量で構図を描いてみせられる。
リアルなドラマにしてしまうと、人間の人格にフォーカスを当てなくてはならない(人物像を膨らませて、人間ドラマにしなくてはならなくなる)。そうすると構図としての社会批判、スターリニズム批判からずれてしまう。なので、動物化カリカチュアして書いている。うまいこと締まった作品。
◆どんどん戒律が詐術で変えられていき、やがて「四本足はよい、二本足は悪い」までひっくり返してしまう。結末をどうするのかなと思っていたが、そんなことまでひっくり返すのかと驚いた。権力者を甘く見ていた。
◆革命後の苦しい生活を素晴らしいと信じ込まされている動物たちは、格差社会で生きる私たちと変わらない。誰にでもチャンスがあると言われているが、実際にそれを手にすることは難しい。我々は本当に自由なのか? それとも奴隷なのか?
スターリニズム批判を超えて、どんな時代でも通じる権力批判になっている。

<参加者D>
◆1944年に書き上げられた作品だが、70年以上前に書かれたものとは思えない。権力を手に入れたらこうなるんだということがよく描かれており、恐ろしい。
◆(ハヤカワepi文庫の山形浩生の訳本に)序文や解説が載っているので、とてもわかりやすかった。動物を使った作者の意図も理解できた。
ソ連の率いる社会主義国家を批判しようとして書かれた作品。序文案には、かなりのページを割いて報道の自由にも言及している。なぜ作者が批判をしているのか、この版にはすべて書いている。
◆最初は序文や解説を読まずに本文を読んでいたので、現在の社会主義国家のことを連想したが、日本も報道の自由が怪しいところにきている。世界報道自由度ランキング2021年版だと日本は67位(参考:1位・ノルウェー、2位・フィンランド、3位・スウェーデン、4位・デンマーク、5位・コスタリカ……42位・韓国)。プロパガンダも気をつけているが、とんでもない言葉が人の口から上がってきている。特定の政党を推していないと反日であるかのような風潮なども。気をつけないといけないと思った。

<参加者E>
◆推薦していただいでよかった。本当に偶然だが、一週間前の読書会で、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』を読んだばかりなので。オーウェルはハクスリーの教え子で、『1984年』と『すばらしい新世界』はディストピア文学の双璧をなすと言われている。本当にタイミングがよく、読書の神様っているんだなと思った。
◆この小説は現代において、社会主義への批判というより、すべての権力への批判として読めると思い、そこに寓話にする意味を感じた。
権力を持った者が、最初はまともなことを言っていても(本人も本当にそう思っているのかもしれない)だんだん権力に溺れてしまう。すごく普遍的だと思う。
◆私は豚よりも、他の動物の態度が気になった。でも、自分がそうでないと言い切れない。(戦争で死ぬかもしれないが)ヒツジでいるのが一番楽だろうし、ボクサーでいるのは幸せであるとも思う。
一週間前の読書会も踏まえてだが、「考えること」「学ぶこと」の大切さを強く感じた。権力側は、私たちが無知であることを望んでいる。だから、考えることや学ぶことをやめてはならない。
ジョージ・オーウェルオルダス・ハクスリーの作品をもっと読んでみたいと思った。
◆序文と解説は必要だけど、本文のあとから読むべきだと思った。最初から社会主義批判として読むと見落としてしまうこともあるだろうし、自分の頭で考えるべきこと、気づくべきことも多いはずなので。

<参加者F(推薦者)>
◆バイブルみたいに読んだらと言われている本。実際に読んで、多くの人に読み継がれている理由がわかった。

<フリートーク
【なぜ権力者の象徴が豚なのか】
B:なぜ権力者の象徴が豚なのかわからなかった。
C:豚には欲の深い動物というイメージがあるのでは。
D:馬のボクサーは必死に働いて(男性)、クローバーはお母さんのように動物たちを庇護して(女性)、モリーはリボンや砂糖を気にして(女性)……女性蔑視的な意味合いもあるのかな。
C:三鷹の森ジブリ美術館の運営するサイトでアニメ『動物農場』(イギリスのアニメーションスタジオ・ハラス&バチュラーが1954年に制作)の予告編や寸評が観られる。宮崎駿氏らの解説も。「今、豚は太っていない(「動物農場」を語る/宮崎駿インタビューより)」。
・アニメ映画『動物農場』公式サイト https://www.ghibli-museum.jp/animal/top.html
・予告編 https://www.ghibli-museum.jp/animal/trailer/
・「動物農場」を語る https://www.ghibli-museum.jp/animal/neppu/

【寓話とした意味】
A:Cさん。登場人物を「人間」として書くと構図はぼやけてしまうものですか?
C:具体的な人物として書くと、人物の運命を描くためにドラマが増えてしまって、構図を描くということがぼやけてしまう。
A:人物造形に力が入ってしまって。
C:人間のドラマにしてしまうと、どうしても人間ドラマになってしまう。構図よりそちらに焦点が当たりやすくなる。

【大衆の意識について】
D:最近、ウィズセンター(男女共同参画推進センター)で、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著『戦争は女の顔をしていない』を借りて読んだ。第二次世界大戦で志願し従軍したが、戦後は世間から白い目で見られ、戦争体験を隠さねばならなかった女性たちを扱ったノンフィクション。自分から戦争に行ってしまうという風潮は恐ろしいし、気をつけたい。
B:作者は作中でヒツジのような奴隷根性も批判している。庶民のプライドの無さが権力者を温存している、と。
D:不当な扱いに甘んじている動物たちのほうも批判していますね。ベンジャミンは動物たちに真実を教えようとすればできたのに、シニカルに横目で見ているだけ。
B:冷笑的な知識階級を、もっとも憎んでいる。
D:読んで、「選挙に行かないと」「政治に参加しないと」と思わせられた。
B:私たちだって、安い物があったらそちらを買って思考停止して……ポピュリズムに流れて支配階級を支えているようなところがある。引きずり下ろしてはいない。
D:日本も本当の意味では自由がない。
私は、皇族制度は人権無視だと感じる。皇族が必要なのかアンケートもしないし。イギリスでは「女王の存在は観光に貢献しているし……」という意見が出てくるけど、日本ではそういうことすら書いてはいけない。1944年のイギリスではソ連を悪く言ってはいけないという風潮があったようだが、それは今の日本の風潮と同じ。
B:人間って変わってないんだな、と。
D:憲法九条を守る活動をしている人も高齢化している。そういえば岡山は静か。大阪の人とオンラインで通話しているとデモ隊が通る音が聞こえてきたりする。
B:岡山は保守王国ですからね。

<雑談>
(通信が不安定でメンバーが抜けたり、連絡しあったりしていた)
A:呼びに行って帰ってこない……。
E:ホラー映画みたいな(笑)。
A:(ホラー映画では)なんで行っちゃうんだろうね。
E:コロナ禍でも自分は大丈夫だと思って旅行へ行って感染する人がいるし。画面越しと違って、実際にその場にいたら危ないことに気づかないものなのかな。
A:アメリ同時多発テロを契機とした対テロ戦争のとき、(戦争に)行ったらまずいなって思って。行く兵士が可哀そうだと。でも、国のためを思っている彼らにそう言うのは失礼な気もして……。その時代の中にいると声を上げられないのかも。
D:ブッシュの大統領二期目が決まったとき、「なんで」という声もあった。反対する人がいても、その声は届かない。

 

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