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『ハンニバル戦争』佐藤賢一(中公文庫)

Zoom読書会 2022.07.31
【テキスト】『ハンニバル戦争』佐藤賢一(中公文庫)
【参加人数】出席4名、感想提出1名

<推薦の理由(参加者E)>
歴史小説といえば日本の戦国時代を思い浮かべる人も多いと思うが、西洋が舞台の作品もあり、また違った楽しみ方ができるかと思い推薦させていただいた。
◆ローマ時代の名前は日本人にとって馴染みが薄く、父親と同じ名前をつける風習もあり(日本でも歌舞伎や老舗企業の後継者などで襲名があるけれど)、ややこしく感じる。それに慣れたら読みやすくなるかな。ロシア文学よりはややこしくない。
◆地名もややこしい。巻頭の地図にバエクラ等が載っておらず、塩野七生ローマ人の物語』についている地図を見ながら読んだ。ただ、「カンナエ」が「カンネー」であるなど読み方が違う。その辺りに苦労するが、一通り頭に入ったら読みやすいのでは。

<参加者A(提出の感想)>
 古代地中海を舞台にした歴史小説。あるいは心おどる教養小説。課題本として提示された当初、正直いって困惑した。第一印象が「むずかしそう」だったから。高校を出ていないぼくに西洋史の知識は皆無。ハンニバルと聞いたらレクター博士羊たちの沈黙)しか思い浮かばなかった。その後ろめたさと、腹を割れば興味のない分野だったことも相まって、抵抗を抱きつつ本を入手。
 ところが、いざ読みはじめてみたら止まらない。長編なのに数日で終わってしまった。司馬遼太郎に夢中になった十代のころを思い出す。歴史小説というよりも教養小説として読みふける。歴史小説の熟読者向け、というよりは、学生や若者向けとの印象が強い文体、そして構成も円滑な読書の助けとなった。(擬音の多用にはやや苦笑)
 何より魅力的だったのはハンニバルという男。彼に惹かれてぐいぐいページをめくった。原則的に表舞台には出てこないのに、その求心力というか牽引力はすさまじかった。少なくとも第一部はずっと彼を応援していた。(「アルプス越え」がファンになった契機だろう。牛に火をつけて攪乱したシーンは鳥肌が立った)
 それに対して、ローマ方はとうとう最後まで好きになることができなかった。大国としてのおごり、虚栄、逸り、選挙目的の坊ちゃまたちで構成された騎兵、兵たちのモチベーションの低さ、指導者たちの権力欲、共和制という不自然さ……二人のトップ・一日交代の指揮・根強い反目……、組織としてのだらしなさ、元老院の頭でっかち、民衆たちのおろかさ、そして解説にあったカトーの嫉妬。ローマとハンニバルカルタゴではない)あるいはスキピオ――保守と革新の色合いが寓話的に鮮明に描き出された今作は、西洋史やそもそも歴史に興味がないものでも十分に楽しめる一冊だと思う。
 小説は冒頭が命というが、この作品は巧みな入り方をしているように感じた。暗い分野であったため、かなり身構えて読みはじめると、なんのことはない、若者らしい失態がコミカルに描かれている。歴史小説の冒頭ということで、どうせ当時の情勢や価値観をしばらくだらだら講釈するのだろうと勝手に想像していたから驚いた。もちろんそのあと、舞台背景の解説に入っていくが、分かりやすいことばで簡潔にまとめてあったから親しみやすかった。冒頭のみならず、全体的に「先に物語を動かしてから状況や設定を説明する」との小説の鉄則が貫き通されていると感じられ姿勢を正す思いだった。また、各エピソードがじつにいい塩梅の長さと濃度で構成されていたことは印象深い。勢いよく、たんたんと進んでいくため、物語自体の動きも早い。読み手の心が離れていかないよう、きめ細やかな配慮が行き届いているように感じられた。緊張した場面とくだけた場面の使い分けもうまいと思う。また、登場人物たちの関係や各勢力の構図、その目的、地形、戦術、陣形、兵士たちの心理分析、当時の世俗・社会システム・文化事情の解説はどれも簡潔で分かりやすく、西洋史に持っていた暗く重たいイメージがこの一冊でずいぶん変わった。
 若さゆえ、あるいは貴族ゆえの浅薄さ・軽率さが目立ったスキピオが絶望と挫折を糧に上昇曲線を描いていくさまには胸を打たれた。やがてハンニバルにさえ比肩するような智将にまで成長する彼だが、伏線としてか、頭脳の明晰さ、そして戦闘中でも思惟にふけってしまうようなマイペースさというか豪胆さが描かれていて用意がいいと思った。「敵に学ぶ」という彼のスタイル、あるいは生き方は人生の普遍的な知恵を提供してくれているように思う。(たしか『覇王の家』だったと思うが、司馬さんの本に「まなぶ」の語源は「まねる」とあった記憶)みずからを凡夫と知ることが成長のはじまりであったことも印象深い。徹底した情報収集、地形利用、人心掌握、練りに練り上げた戦術、ゆたかな空想、柔軟性、決断力、実行力、運、そして「神」というものの使い方(無名の若者であるゆえに)社会という戦場で生き残っていくための輝かしい知恵に思わずうなる。
 ただひとつ心残りだったのはラスト。模倣しつづけたハンニバルとの直接対決は、敵方にまさかの情がはたらいたところで終幕するが、これが歴史小説でなかったら、スキピオ自身の個性をなんらかのかたちで表現してほしかった。倒すべき敵に学ぶ、という主題を寓話的に昇華するなら、最後は主人公の人生観を反映させたひらめきで飾って欲しかったと思う。逆にいえば、「包囲殲滅作戦」の完成に最後まで執着する主人公には心のゆとりが感じられない。創造性や「たのしむ」という姿勢が欠けているように思われる。それではオリジナルを越えることは難しいのではないかと思う。もっとも、物語本編としてそこは求められていないと思うが。(仮病で裏切り者を吊り上げる、スパイに偽りの戦陣を見せてから帰す、などはおもしろかった)
 寓話的といえば、イタリアという国を「からだ」とし、ハンニバルという男を「ウィルス」とみると、ワクチンとしてのスキピオは意味深いと思う。内側から力づくで追い出そうとするのではなく、ウィルスが元いた場所に帰っていかざるを得ない状況を作り出す。
 また、昨今ニュースでよく取り上げられている戦地の状況を、時代が大幅にちがうとはいえ、ほんの一部でも仮想体験できたことも感銘深かった。七万人の死体が転がっていたというカンナエの凄惨な画が、現実のものとならないことを願うばかり……。
 戦争までいかなくても、近い場所にふたつの勢力・ふたりの人間がいたならば、対立や衝突は免れないことだろう。そのどちらにも正義はあるし悪もあって一方だけをひとつの名前で断定することほど愚かなことはないと思う。(インドの神さまはイランでは悪魔と呼ばれ、イランではまた逆になる……)世や大衆の無情や無常観をなげき、「ただ歴史に残っただけだ」とつぶやいたラストのスキピオは印象的。
 さいごに、この物語を影から動かしていたもうひとりの男・ラエリウスには心から敬意を送りたい。彼は心理学でいうところの影の役割をつとめているに思われる。表舞台にはほぼ出てこないハンニバルと忠僕ラエリウス。スキピオという華々しい主演俳優と、ふたりの寡黙な演出家の対照は構成としてのみならず寓意としてとてもあざやか。暗かった分野にあたたかなひかりを灯してくれた一冊だった。

<参加者B>
◆私は古代の世界史はまったく詳しくないが、歴史を知らなくてよかったと初めて思った。大河ドラマなども史実を知らないほうが楽しめるのではないだろうか。
◆前半(第一部)では、主人公・スキピオが翻弄されているのがもどかしかったけれど、それが後半(第二部)で効いている。
◆ただ、スキピオの政治的センスについて第一部で触れてほしかった。政治家タイプであると、第二部で唐突に出てきた感じがしたので、それまでにその片鱗を見せておいてほしい。地理が得意であること、記憶力がいいことなどはきちんと書いてある。
◆ただスキピオが勝って終わるのではなく、ハンニバルの在り方、去り方、そして(人生の)幕の引き方までがスキピオに感銘を与えている。最大の敵が最大の推しになっているんだなと思った。
ハンニバルは読者にとっても魅力的。戦いに負けることになっても肉親を助けに来るところなどに惹かれる。この作品はスキピオの成長物語だけれど、影の主役はハンニバルだと感じた。
ファビウスの使い方が巧い。(読者から見て)前半は有能でわかっている人、後半はスキピオの前に立ちはだかる役割。ファビウス自身は変わっていないのに、スキピオの立場が変化することでそうなるのがいいと思った。
◆妻であるアエミリア・パウラと買い物に行ったときなどに登場する街の様子が好き。個人的に、戦争より、その土地で暮らす人たちの生き生きとした描写に惹かれる。
◆戦争のシーンでも、景色の描写がおざなりになっていないところがプロだと感じた。
◆文章に関して、Aさんは擬音の多用を挙げられていたけれど、私が気になったのは、予想外の事態に直面したスキピオの「…………?」という反応。使用回数が多いなと思った。
◆その他、作品を読んで考えたこと。ローマの、暴君を嫌うというスタンスはいいと思ったけど、それでも元老院が好き勝手できてしまうんだとわかった。現代日本のシステムもある面でよくできているが、その一方でいろいろできてしまうところがある。いつの時代も人は変わらない。

<参加者C>
◆読みやすかった。プロットも明瞭でいい小説。ただ、同じ著者の『傭兵ピエール』『双頭の鷲』が好きだったので、自分のハードルを越えていない。他の作品は二重三重のどんでん返しがあって終わったとき感動するのに比べ、普通の歴史小説という印象。あまり語りたくなる感じがしない。ローストビーフ丼みたいに、美味で華やかだけど、それだけで満足するような。
◆私も塩野七生の作品を読んだことがあり、流れを知っているが、知らずに読んだほうが面白いと思う。
◆(作中の)ローマの独裁を許さないスタイルが好き。カルタゴはどんな国か、いまひとつ見えてこない。スキピオ視点だから仕方ないが。
◆普通に面白い作品だった。

<参加者D>
◆戦いのシーンが入ってこなくて読むのに大変苦労した。なので、大したことは言えない。
(妻であるアエミリア・パウラが出てくるシーンは読めた)
◆エピローグの、スキピオの独白のようなところで、ハンニバルにとって、スキピオにとって戦争はどうだったか、「ただ歴史に残っただけだ」にとても感動した。私たちは平和教育で戦争は役に立たないとインプットされているので。
ハンニバルは毒をあおって、スキピオも失脚。義経を思い出した。やはり戦に長けた人は失脚させられるのかと。

<参加者E(推薦者)>
◆「ハンニバル戦争」だから戦争の話。家庭的な話は付け足し。忘れてはいないよ、というような。戦争だけだと読者がついてこないから。
◆Dさんが仰られたようにスキピオ義経(のような存在)。でも、主人公にスーパースターを持ってくるのは面白くないので等身大の人物として描いている。最近の小説では、主人公を「すごい人」にしない。例えば秀吉でも等身大の主人公だったりする。
ハンニバルだとすごい人になってしまうのでスキピオのほうが書きやすい。
でも、本来スキピオは凡人でなく英雄。古代から現代にかけて強い将軍を挙げろと言われたら、ハンニバルとともにスキピオは必ず入る。それを坊っちゃんみたいに書いているから違和感がある。
義経みたいに描けばよかったのでは。軍事の天才だけど不器用なところもあって、そこに人間性を付加していく感じで。
ハンニバルスキピオの目標であり、作品の象徴。小説の構成として参考になる。
◆包囲殲滅にこだわりすぎ(それも小説のプロットではあるが)。勝てたのに殲滅できないことにこだわるのは、本当ならありえない。そのために負けたら意味がないので。そのあたりがゲーム感覚だと感じる。
ちなみに塩野七生の作品では、そこまで包囲殲滅にこだわっていない。
ハンニバルの弟・ハスドルバル・バルカと戦ったバエクラの戦い。塩野七生も書いているが、結果として包囲殲滅のような作戦が行われた。
スキピオ最大の失敗は、ここでハスドルバル・バルカを逃がし、イタリアへの行軍を許してしまったこと。不戦主義のファビウスにまるで背いている。イベリアからの補給を経つためにスキピオの父と伯父を張り付けておいたのに、イタリアに攻め込ませてしまった。これがファビウスの怒りのもと。元老院スキピオに異を唱えるのは、この件がしこりになっていたから。その辺りがもう少し書かれていたら面白い展開にできたと思う。
◆この作品では、ハンニバルを超えるためには包囲殲滅作戦をマスターしなければ、とされているが、実際は(作戦には)こだわっていなかったはず。
ヌミディアの騎兵が登場したので、アフリカに騎馬民族がいたのか調べてみたところ、地中海沿岸の牧草地は馬の産地だそうだ。その辺りも詳しく書いていたら、さらに面白かったのでは。
◆私は他から調べた知識で読んだ部分が多かったが、小説の中で巧く書いてほしかった。著者は西洋史の専門家だから、読者も知っていて当然と思って小説に書かなかったのか(ポエニ戦争については、高校の歴史の教科書を読んだほうがわかりやすい)若干物足りない。ただ、あまり書きすぎると説明的になるから兼ね合いが難しいが。
ファビウスの不戦戦術はウィズコロナみたい。スキピオはゼロコロナ。いつの時代も同じような考えの人がいるのだと感じた。
◆書く者として学ぶところがある作品だと思う。

<フリートーク
【キャラクターの造形について】
D:Eさん、どんなところが参考になりましたか?
E:歴史小説には、歴史的事実そのものの面白さがある。例えば一ノ谷の戦いは誰が書いても面白い。上手い作家が書いても、下手な人が書いても。
しかし、最近主流の小難しい小説の書き方だと躍動感が出ない。
一ノ谷の戦い長篠の戦い、秀吉の中国大返し赤壁の闘いのような、心躍る、胸のすくような読み方をしたかったが、希望は叶えられないとわかっていた。直木賞作家が胸躍る話を書くことはないと思うので。
D:Bさんは「面白かった」と仰っていましたね。
B:結末を知らなくて(笑)。どっちが勝つんだろう、誰か死ぬのかな、ってはらはらしました。
E:それでは二度目は、犯人がわかったミステリーみたいで面白くないはず。何度読んでも面白い作品でなければ。
D:大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は群像劇で、それぞれのキャラクターが立ち上がっているから面白い。歴史に興味がない私でも観れる。『ハンニバル戦争』でも、もっとキャラクターを書いてほしかった。Cさんは登場人物に感情移入できましたか?
C:スキピオは逆境をはね除け、成長するという明確なキャラクターでわかりやすい。
E:佐藤賢一の造形がヒットしない人にとっては、キャラクターがふわふわしていると思う。冒頭、馬鹿息子みたいに登場するが、後半の元老院を説得するところは格好良く描いている。がらっと変わるところで両面性があると感じられて面白い。スキピオが、ハンニバルの意図がわからず悩むところもよい。キャラクターはよくできている。感情移入までできるかはわからないが。

【日本や他の国に伝わる話との相似】
D:世界史は習ったので地名や名前は馴染みがあった。
B:私は古代の地名がわからずふわふわしたまま読んでました(笑)。
C:どこかわからないとファンタジー世界みたいに感じそうですね。
E:私は、古代ローマ好きの世界史の先生が陣形まで教えてくれて。図表で、騎兵がこう動いて……みたいに段階を追って説明してくれた。それがそのまま書いてあるから読みやすかった。「そんな話だったな」と。戦術が詳しく書かれている小説はあまりないので、そういった意味で面白かった。
C:カルタゴで潮の満ち引きを利用する部分は、日本史でも同じような話を聞いたことがあるから著者の創作かと思ったのだが、塩野版にもある。日本に伝わっているのは、新田義貞が海に太刀を投げ込むと潮が引いた、というもの。似ていて面白いと思った。古代ローマの話が日本に入ってきて、それが元になったのかもしれないけれど。
D:聖書でもモーセが海を割っている。
E:もしかすると潮が引いて渡れるところができたことを指しているのかも。
風向きの変化を利用するのは、『三国志』にも似たような話がある。
古代ローマの話に戻るけれど、渡れるくらいの干潟となると、新カルタゴ側が気づくのではないだろうか。干潟が現れるのは毎日のことなのに。
C:スキピオ義経に例える話が出ましたよね。でも(この作品では)スキピオより、ハンニバルのほうが義経と近い天才タイプ。だから、平家方の誰かが義経に対抗しようとすると(この作品の)スキピオみたいな感じになるのでは。平家は負けてますけど。

ハンニバルスキピオの描き方】
E:私は昔からスキピオのほうが好きだった。高校の授業のとき、「こいつ格好いいな」と思った。悩みながらハンニバルを超えていこうとする成長物語。
D:この書き方のほうがハンニバルを英雄的に書ける。
E:映画『ベン・ハー』ではキリストが出てくるけど顔は映らない。この『ハンニバル戦争』のハンニバルもこのような扱い方。
D:ローマでハンニバルが槍を投げる場面は感動した。
E:後半の会見で姿を現してしまった。あんな理屈で何万人も殺すだろうか。議論のための議論にしか見えなかった。
C:作中で、軍事は天才でも普通というエクスキューズがあった。
E:大軍隊を温存して甥を助けたのは不自然。当時の人間は、家族より国が大切なのでは。これ以上、肉親を失いたくないから助けたというのは違和感がある。弟たちを失ったからこそ、犠牲を無駄にしないために勝とうとするのではないか。
C:私も、無理やりハンニバルをピンチにしているのかなと思った。あそこでハンニバルが逃げていても勝敗は決しているので。ザマの戦いがいまいち映えておらず、盛り上がりに欠けたと感じる。
E:カンナエでローマ軍が包囲殲滅されるところは不気味でよかった。こういう状況だったのかと。塩野七生はここまで書き込んでいなかった。ただ囲まれただけかと思っていたら、息をすることすらままならないほどの状態だったとは。
C:ザマの包囲殲滅までねちっこく描写するとスキピオの印象が悪くなりそうですね。
E:どこに伏兵がいたのかわからないまま前半(第一部)が終わる。後半(第二部)、スキピオの分析で答えが出てくる。答え合わせみたいな、巧い構成だと思った。そこまでついてくる読者がいれば、だけど。
C:あれはよかった。勝ち始める理由が示されていて。
E:スキピオはちゃんと別の形で分析を活かしていて納得させられる。そこまで読み取れる読者はどの程度いるのだろう。
C:ヌミディアに手を出した辺り、スキピオの政治家ぶりが出ていましたね。敵将であるギスコと一緒に椅子に座るところが面白かった。そこでハンニバルを出すとしたらサービスしすぎかな(笑)。
E:ハンニバルがイタリアから出ると話が終わるから(笑)。

C:作中のスキピオは、将軍としてハンニバルを超えた感じはしない。
E:現実では(戦術で)超えたと思う。そのまま模倣したのではなく、スキピオのアイディアがあった。この作品では敢えてその部分を外したのか。書いてしまうと凡庸ではなくなってしまうから。
C:最後まで「若き挑戦者」ですね。私は、最後は超えてもよかったと思う。そうでないと、ローマの国力がカルタゴより強かったから勝てた、ということになるから。

【もっと活躍してほしかった人物や国】
E:登場人物のモデルを考えたら面白い。ラエリウスは直江兼続とかを思いつく。その辺りを巧く使っている。
C:ラエリウスは個人としての性根が見えないので、私の中では影が薄い。
E:例えば直江兼続は「愛の武将」と呼ばれているけれど、兜に掲げた「愛」は、現代人が想像する「愛」ではなく、愛染明王の「愛」。でも現代の作家は、現代人の「愛」として使ってしまう。そう解釈するとホームドラマにしやすいから。現代で定着しているイメージは本来の直江兼続ではない。
C:スキピオとラエリウスはBL的にも読めそうな……?
B:スキピオの足りない部分をラエリウスが補っているように感じた。Aさんが感想の中で仰っていた「影」的な。都合がよすぎて、作られたキャラクターみたいに思えてしまった。
C:艦隊を率い始めてからキャラとして薄くなりましたね。
E:あと、マシニッサとか、西ヌミディアの王・シュファクスも、もっと書いてほしかった。民族の名前も似ていてややこしいけれど。
C:ヌミディアではスキピオの権限がないところが書かれていて面白かった。
E:ヌミディアがもっと力を発揮してもよかったかも。ヌミディアの騎兵隊は撹乱に強くても馬から下りたら弱いので、戦力としてはわからないけれど。
C:アラブにはパルティア騎士がいたから無双はできなさそう。
E:当時は鐙とかないですよね。
C:だから馬に乗れるだけでもすごい。貴族しか騎兵になれないのはそのため。
E:鐙っていつからあるのかな。
C:鎌倉時代にはある印象ですね。調べよう。……最古のものは302年のようです。欧州だと7世紀。ということはローマが滅びるまで裸馬かな。
今とは違う地中海世界なんでしょうね。
E:顔も違うだろうし。カディスの対岸がモロッコ。ザマはチュニス
C:リュビア人がリビア人かな。意外と近い。
E:北アフリカとスペインは行き来があった。チュニスがアラブ海賊の港になっていたり。ジブラルタル海峡とか泳いで渡れそう。
D:今はフェリーが行き来している。
C:あの辺りは今も要衝ですね。

【後の歴史への影響】
C:ハンニバル、なんでアルプスを越えたんだろう。海路のほうが楽そうなのに。
E:そうしたら敵に出会うし。
C:(海路の)マルセイユ→ニース→ジェノバ……のほうが楽そう。アルプス越えでも軍隊が消えるんだったら1回戦っても変わらないのでは。
あんなに減るとは思わなかったのかな。当然、やったのは初めてだろうし。
E:当時、兵隊を人とは思っていなかったのがよくわかる。
D:傭兵はお金のためだろうけど、他の兵隊は愛国心で戦っている?
E:(ザマの戦いで)カルタゴ軍が逃げる者を殺していたように、現代とは発想が違うのでは。
C:ローマは戦意が高かったんじゃないかな。
E:執政官のうち1人は貴族、1人は平民。貴族の騎兵は弱い。そこから平民が力をつけてきた。
共和政が上手くいっていたのはこのころまで。カルタゴが衰えると敵がいなくなり、敵がいなくなると内部抗争――共食いが始まる。ポエニ戦争に勝ってしまったことが、後のカエサルなどに繋がると思ったら面白い。