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R読書会/Zoom読書会

『やし酒飲み』エイモス・チュツオーラ、土屋哲訳(岩波文庫)

R読書会 2023.01.28
【テキスト】『やし酒飲み』エイモス・チュツオーラ、土屋哲訳(岩波文庫
【参加人数】9名
※オンラインでなく対面形式でした。

<推薦の理由(参加者I)>
数年ほど前から岩波のTwitter公式アカウントが話題にしていてタイトルだけは知っていた。そして最近、地元の市民講座(文学関連ではなく認知心理学の講座。文体ごちゃまぜの効果、という話)を受けたとき、思いがけず話題に出てきた。
敬語ではなかったのに途中で敬語が混ざったり、敬語からぞんざいな文体になったりという、基本的には話し言葉の分析中心だが、書かれたものについても言及があった。三島由紀夫のエッセイや、小説作品ではこの『やし酒飲み』が取り上げられていた。アフリカの作家が神話・伝説をもとにして書いたと聞いて、私の好きなジャンルだと思い購入した。
皆さんが読んだり書いたりしているリアリズムの小説とは異なっており、どう感じられるか興味があったので推薦した。

<参加者A>
[事前のレジュメより]
《冒頭で神話系の作品と気付いた》
 やし酒飲みが酒造り職人を連れ戻すために旅をする物語。主人公は、怖ろしいほど酒を飲む男だ。午前中に一人で150樽飲んでしまう。一樽18L(一斗樽)としても、2700Lを飲む計算になる。長男に甘い父親は、9平方マイル(約14km²)のやし園を与え、専属のやし酒造りを雇った。
 主人公は超人間的な男で、「この世のことならなんでもできる、やおよろずの神の〈父〉」なのだ。冒頭でこの話は神話系の物語だなと思った。

《「完全な紳士」が一番印象に残るエピソード》
 奇妙な生き物に娘を誘拐された。助けてくれたら娘を嫁にやる、やし酒造りの行方も教えると言われ救助に向かう話。日本の神話や民話でもよくあるパターンである。
 「完璧な紳士」の設定にはびっくりした。こういう発想のできる作者はすごい。この完璧な紳士の容姿に惹かれた娘が追跡してみると、この紳士は身体の部位が借りた物でできた生き物だった。所有者に返してしまうと残った部位は頭蓋骨だけだ。おどろおどろしい姿を見て、娘は逃げようとするが無駄だった。その化け物は、娘の首に貝のたがをはめ穴倉へ閉じこめた。市場で「完全な紳士」を見かけた主人公は、彼を追跡する。この紳士の容姿は主人公が見惚れて夢心地になるほどの美しさだった。
 頭蓋骨一家との闘いの場面が面白かった。「わたし」がトカゲ・空気・鳥に変身する。敵側がそれに対応してくる戦術が予想外なものばかりで、感心させられた。

《様々な土地で様々な生き物と出会う》
 旅の途中出会う様々な人々の、奇妙な生き方に「あっ!」とびっくりさせられた。ドラム・ソング・ダンスの3人、背丈が400mもある白い柱の生き物、原野の国のオガ屑の王様、音楽好きな幽霊島の人々。読み終わって振り返ると、手強い相手は、「不帰の天の町」の住人と「飢えた生き物」だったように思える。化け物から逃れる方法は、日本の民話(一寸法師など)と似ていた。

《もっと凝縮した物語にできないか》
 読み物として考えた場合、同じようなパターンの話が多すぎて、奇抜な生き物が登場しても読者は飽きてしまう。「完全な紳士」、「誠実な母」、「赤い町の住人」、「死者の町」、「飢饉で苦しむ故郷」~これら五つほどのエピソードに絞るべきではないか。

《危ない場面で妻の機転や洞察力が危機を救う》
 旅の初めは単なる同行者であった妻が、だんだん主人公が困ったところで適切な助言をする重要な存在となっていく。

[以下、読書会にてAさんの発言]
◆1ページ目を開いて神話だとわかって、写実的ではないなと思い、読む意識を変えた。
◆一番印象に残ったのは完全な紳士。日本の民話でも、主人公がある村を訪れると、娘を攫われて困っていた長者が「娘を助け出してくれたら嫁にやる」と言うパターンがある。『やし酒飲み』では、やし酒造りの行方も教えてくれている。
完全な紳士についていったら、紳士は体から借りた部位を返しながら歩いていき、最後は頭蓋骨になってしまった。こういう話を作ったナイジェリアの人の発想はすごいと思った。
◆やし酒飲みがやし酒をどのくらい飲んだかというと150樽。午前中に2700リットル飲んでしまう話。設定としては古事記と同じように神様で、超能力を持った人物として描かれている。
◆物足りなかったのは、同じパターンが続くから飽きてくるところ。物語として読む立場からすると、もう少し凝縮してほしかった。
(凝縮するとして)残してほしいエピソードは完全な紳士、誠実な母、赤い町、死者の町、飢饉の話。それくらいにしたほうが、ドキドキ感があったのでは。
◆妻の立場が途中から重要な人物に変わる。最初はただ一緒に旅をする女性だが、途中から予言者になる。面白い書き方。

<参加者B>
◆発想の豊かさがすごい。ナイジェリアの自然、歴史……。書くものは歴史や生活に縛られている。だからこそ作品が生まれる。
◆読後感が愉快。日本人と価値観が違う。場面転換の鍵になる部分も違う。再読して拾い直したい。
◆習いたての英語のような、とつとつとした語り、息をつかせない展開が魅力。ヘタウマというのだろうか。
◆日本の私小説で書かれる独白がまったくない。潔い行動で次々進んでいく。私がいつも読んでいる小説と違っており、小説の作りについて考えた。

<参加者C>
◆わからないながらも、とても面白く読んだ。おとぎ話をわくわくしながら読み進めた子供のころを思い出した。
◆日本や他の国の神話やおとぎ話に近い部分がたくさんあった。特別な力を持った主人公が冒険をして故郷に帰ってくるところ、知恵によって異形の者を倒したり、異形の者から逃げるところ、死者を探して死者の国へ行って帰る展開など。
死者は生者と逆……というのは日本にもあって、着物の合わせが逆だったり、屏風を逆さにしたりする風習があるが、世界の離れたところでもそういう認識がされているのが面白い。神話やおとぎ話が似ていることも。私は民俗学や、話の伝播などに興味があるので、そういう視点でも楽しく読んだ。
◆日本と違うと感じた部分は、ウェットさや陰惨さをあまり感じないところ(訳しているからかはわからないけれど)。出ていけと言われたら「わかった出ていく」みたいな感じだし、くよくよ悩んでいるより行動しろ、みたいなパワーを感じた。そうしなければ死んでしまうからかもしれないが。
A:息子を焼き殺す。陰惨じゃないですか?
C:陰惨というより神話に近いかなと。ヒルコとか淡島みたいな。
◆アフリカにあるような森林をさ迷ったことはないが、日本の山や海に、どうしようもない恐怖というか畏怖を感じることはある。自然と人間、精霊と人間の関係を考えた。
◆英語で読めないのが悔しい。解説を読んで、きっと味わい深い文体なんだろうなと思ったので。
◆また読書会でマジックリアリズムの作品も取り上げてほしい。南米文学など有名なのでしたか。

<参加者D>
◆自分で手に取る小説ではない。推薦していただいてありがとうございます。
◆いろいろな国に行って、出てくる敵を倒したり、国王に会ったり……ドラクエ世代としては楽しんで読んだ。ジュジュや魔法を使うなど童話的だとも感じた。
I:奥さんと会話すれば攻略のヒントが出てくる、みたいな(笑)。
◆主人公が成長しているといえばしているのかな。奥さんはだんだん神秘的になっていく。
◆表現が独特で、生物がおどろおどろしい。水木しげるゲゲゲの鬼太郎』のように愉快でもある。あまり暗い印象はなく、楽しく読んだ。
とはいえ、息子を躊躇なく殺しているのだが、そこも淡々としている。主人公が煩悩のままに生きているのが面白かった。
◆文体は考えられているのかもしれないし、拙いのかもしれないし、とにかく思うまま自由に書かれている。展開が早い。都合がよすぎるけど、どんどん進んでいく。凝縮されていて楽しい。
◆ストーリーで心に残ったのは、誠実な母の白い木に入る前、戸口の男に「死」を売り渡しているくだり。「死」をお金で売るとか面白い。「死なない」ことは、後でちょくちょく関係してくる。

<参加者E>
◆アフリカ文学は初めて読んだ。評論家などは、日本文学から見ると幼稚と言うかも。
◆いろいろな神話が出てくるが、面白かったのは完全な紳士が体を返していくところ。また、命を売ったり、恐怖心を貸したり……こういう発想は、普通に生活しているとなかなか出てこない。命を売ってしまえば死なない、というのは便利。使えるなという気がした(笑)。
◆私は、ですます調が混ざっているのに気づかなかった。文章に厳しい人なら指摘するだろうが、私は今気づいた。混ざっていても意外に違和感がないなと感じた。
I:崩れた英語を訳者が工夫して日本語にした。成功しているかどうかはわからないが。
E:「私の人生と活動」を読んで納得した。作者はちゃんとした教育を受けておらず、よく書けたなと思う。

<参加者F>
◆紹介していただかないと読むことはなかった。ありがとうございます。
◆『やし酒飲み』という人を食ったタイトルが面白くて。作者名も読みにくく、いい味を出している。
◆「幼稚」や「童話」という話もあるが、メタファーとして読むと社会批判が入っていて、(作者の)相当な頭の良さを感じた。

〇高価な酒をたくさん飲む、富のある人が、酒を飲めなくなる⇒飢餓を表す
〇アフリカの飢餓を解決するために立ち上がった。
〇ジュジュ⇒知恵や科学
  作者は鍛冶屋で道具や武器を作っており、科学を大事だと思っている。
〇1つの卵が打ち出の小槌のように使われ、割れた後、食べ物ではなく虫が出てくる
   ⇒諸刃の刃のような、西洋諸国の甘い誘惑に乗ったアフリカの悲しさ
〇「ドラム」「ソング」「ダンス」⇒アフリカの文化
   ドラムはものを伝えるための手段

一つひとつにメタファーがある。全部織り込んで、平明な言葉で繋げているのは相当な才能。解説を読んだら、奥行きがぐっと深まる。
◆西洋諸国ではアフリカ文学の最高峰と言われるが、アフリカでは評価が低いのがわかる。
白い木の「誠実な母」は明らかに白人。白人を悪く言っていない。
『やし酒飲み』が書かれたのは、西側のアフリカへの関わり方が甘かった20世紀の前半頃。それ以降、西洋諸国はアフリカの自然を破壊した。現代のアフリカ人の意識が、作品が書かれたころとずれているからでは。
◆メタファーとしてすごいと思ったのは、縄ばりの掟があり入っていけないから、あっさり引き下がるところ。自然界はそう。ハイエナでもハゲタカでも、マーキングした場所以外は乱獲しない。乱獲するのは人間だけ。そのあたりのことがきっちり書かれている。
◆自然と人間の関わりも、温い日本とはまったく違って、畏怖の念を持って接している。
E:ナイジェリアに行った友人によると、毎日が命の危機だそう。警備員と番犬がいて、みんなが武器を持っている。
I:やたら森林(ブッシュ)が出てくる。日本人はアフリカと言うと砂漠や草原をイメージしがちだが、この作品では西部の赤道付近が舞台になっている。
H:今でも森林地帯は残っているんでしょうか。
D:郊外にはあるのでは。ナイジェリアの首都とかはオイルマネーですごく発展していますね。
I:西洋の植民地化で発展して今では都会。
F:でも格差は激しい。
「赤ん坊の死者」が狂暴。乳児の死亡率が高いから、このように書いたのでは。
I:日本でも子どもの幽霊は怖がられる。世界共通。子どもが死ぬことが多い国では、(赤ん坊の幽霊が)大挙して襲ってくる。
F:水子とか怖いですよね。
I:わりと人類共通ですね。
◆面白いと思ったのは、「こういう顛末です」と作者がまとめるところ。飄々としている。
I:講談みたいに(笑)。
F:陰惨な話だけど淡々としている。
あと、裁判(P151~)。天国で取立てるために死んだ債務取立人、結末を見届けるために死んだ男……もうユーモラスで。そうか、お金返さなくていいんだ、と(笑)。
3人の妻の愛情を秤にかけるのも解決していない。判定せず、そのまま。おおらかというか、物事に結論はないんだなと思った。

<参加者G>
◆文体がごちゃまぜで、猫田道子『うわさのベーコン』を思い出した。
◆惹きこまれて読み始め、トルストイや、アンデルセンの「パンをふんだ娘」を思い出しながら夢中で読んだ。
◆ジュジュの使い方。ジュジュでお金を出すのではなく、働いてお金を稼ぐ。そこが面白い。力ではなく知恵だけをジュジュからもらって、自分が動かなくてはいけない。いい加減なようでちゃんとしている。
I:変身する話は世界的に多い。魔法が出てくる物語では「変身」は基本。エジプトでもメソポタミアでも。変身能力は古くからある魔法のイメージ。あまり即物的でないというか、直接どうこうしようではなく、姿を変えるというファンタジックさが基本としてある。
◆不帰の天の町で理不尽な仕打ちを受けるが、どうしてあそこまで理不尽なのかわからなかった。3ヵ月治療をした、とかリアルで。書き手としては始末しながら書いているのかな。
◆奥さんをかばう、というのが全然ない。奥さんが強い。途中から予言者のようになってしまっていて。最初はアンデルセン童話に出てくる愚かな子(「パンをふんだ娘」の主人公)みたいだったのに。
やし酒飲みさんは最初から淡々、飄々としてあまり変わらないが、女性は変化している。
I:奥さんは困ったときに使われるアクセサリ的存在。人形に変えられてポケットに隠されたり、予言をしたり。妻としての人格がなく、都合よく使われている感じがする。

<参加者H>
◆皆さん、深く読んでおられるので、読み方を学ばせていただきたい。読み方がわかれば、書き方もわかるのではと思う。
◆私はどちらかというと解説のほうが面白かった。
◆私にとっては難解で、苦しくなり、途中で本を伏せてしまった。卵を得たあたりから読み方が変わって、悲しかったり辛かったり、感情を揺さぶられるようになった。「一個の卵が全世界を養った」というところで言い知れない感動、温かいものを感じた。いろいろな苦難を乗り越え卵を得て……とても大事なもののように思う。
「面白い」という読み方はできなかった。
◆読んでいて、ほっとしたところは誠実な母との出会い。
◆聖書の奇跡物語を読んでいるようだった。作者はキリスト系の学校に行っていたそうだが、そういったものも底を流れているのでは。
I:いろいろ読み取り方はあると思う。私は聖書に詳しくないので共通点はわからないが、死者を蘇らせるのは表面的な目的で、最終的にはすべての人を救う卵を持って帰る――神が人間に卵を授けるために彼を向かわせたと読み取ることができる。
H:P162「やし酒飲みと専属のやし酒造りの物語りは、これで終わりです」から後のほうが面白かった。「地の神」と「天の神」が喧嘩をする。捧げ物をして最後は天の神が勝った。聖書に似ているのでは。
I:一番最後に出てきた神への捧げ物。そういう儀式が興る謂れ、説話がついているのが面白い。
H:読者のことを考えずに自由に書かれていている感じがした。
◆推薦者の方が、どういう感じで推薦してくださったのか知りたい。

<参加者I(推薦者)>
◆世間で受け入れられ、流行っている小説と毛色が違う。そういう方にお薦めするには適当ではない。
◆読んでいて昔話調であっけらかんとしていたり、出鱈目だったりする「面白い側面」と、赤ん坊の死者、卵のムチなどの「シリアスな側面」があるのだが、これは講談に結構近い。ある森へ入ったら、こんな化け物が出てきて、こう切り抜けて……と、同じような話が多い漫然としたところが。『西遊記』などでも、次の町や村に入ると化け物がいて、三蔵法師を取って食おうとするので倒して……という話が多い。近代のリアリズム小説が根付く前、人々はこのような、ある意味出鱈目なほら話を面白がっていたんだなと再認識させられた(酒を午前中に150樽も飲めるわけがない)。昔話にも、怠けている男の鼻が伸びるとか、想像力豊かな話がふんだんにあったが、我々はリアリズム病に罹って面白さを捨ててしまった。

<フリートーク
【他の神話や作品と比較して】
B:1600年代に『ドン・キホーテ』がミゲル・デ・セルバンテスによって書かれてから350年くらい経って、アフリカでこういう作品が書かれている。
I:ジョナサン・スイフトガリヴァー旅行記』は1710~1720年代。社会批判をほら話のオブラートで包んでいる。
対して、『やし酒飲み』は社会批判よりも、豊かさや単純なユートピアに対する憧れ、アフリカの伝統的価値観、という側面が強い。卵が壊れてムチが出てくる現実は厳しく、ユートピアではない。
B:その話が受け入れられたということ?
I:どうでしょう。どちらかというと、説話文学として歓迎されている――つまり、ギリシャ神話やメソポタミア神話のようなものがアフリカにもあるという興味で読まれているのでは。死んだ人を呼び返そうとする話はギリシャ神話や日本神話にもある。ギルガメシュ叙事詩ギルガメシュも、友人が死んでショックを受け、不死を求めて旅に出ている。
死者や聖霊は、霊魂のみ・魂のみの存在ではなく、ちゃんと肉体を持っている(生者の肉体とは異なるが)。生者とは別の場所へ行くだけ(=平行他界)。でも、天の神と地の神は違う。神は天の上にいるんだ、と宗教観が発展して終わったのが面白い。小説としてより、比較神話学的に興味深かった。
E:作者が独立運動をしていたとか、そういう話はないから、寓話として読まなくても、アフリカって面白い、と読んでもいいのかな。
I:私はユートピアとノスタルジー性のファンタジーとして読んだ。
E:(作者は)どちらかというと都会的な人なんでしょう。
I:アフリカだと、東部のマサイ族のイメージが強いが、作者は西部のヨルバ族。聞き馴染みがないと思うが、私は神話が好きで、世界の神話をまとめた本に載っていたから知っていた。斧の姿をした雷神(シャンゴ)がいる、とか。
F:ハウサ族、イボ族、ヨルバ族はナイジェリアの3大民族ですね。
D:会社で「何を読んでるんですか」と訊かれてアフリカ文学と答えたら、賢そうに思われました(笑)。
C:(笑)。訳のおかげかもしれないけれど、文章に引っかかるところはなかったですね。想像するのが大変だったけど……膝に目が、とか。雰囲気で読みました。
I:水木しげるを思い出しますね。
C:Dさんも『ゲゲゲの鬼太郎』と仰っていたし、ネットでいろんな人の感想を読んでも「水木しげる」と書いている人がいて。土着性が似てるのかな?
I:諸星大二郎の『マッドメン』を持ってくればよかった。舞台はパプアニューギニアなんですが、精霊が出てきて、近いところがある。
『やし酒飲み』を映像化する場合、精霊はどう描写するんだろう。
G:舞台化されたそうですが、どんな感じだったんでしょう。
I:黒タイツになってしまえば「いない」ってことにできますね。

【自分の作品に生かせるか】
F:『やし酒飲み』を読むと、私たちが書いている作品の独白とか、シャーペンが転がって……みたいな、ちまちました描写ってどうなんだろうと思いますね。
I:細やかな心情を分析して言語化するのが日本の伝統。日本人は私小説的情緒に非常に適している。
C:でも、ラストに困ったら「以上が顛末です」って、やってみたい(笑)。
A:私は『一寸法師』を小説として書いた。川では舟に乗り換えて……みたいなリアルタッチで。打ち出の小槌は、原子力のように人間の力では制御できないもの、とした。最後は燃やしてしまうんだけど。そうしたら、小説の講師に「面白くない」と言われて。何か別の要素がないと小説として成り立たない。難しいことをやりすぎたと感じて、日本の民話を現代風に書くのを諦めた。民話はもともとすごく文学性がある。『やし酒飲み』を読んで、私は無理なことをしていたんだな、と改めて思った。宗教観とか、いろいろなことを弁えていないと、オリジナルの『一寸法師』を超えることはできない。
I:昔話をリアリティに置き換えて書く面白さもあります。
C:空想科学読本』的な面白さ。
B:でも難しいですよね。
I:ファンタジックな面白さを否定してしまうことになるから、それ以上を持ってこなければいけない。
B:『やし酒飲み』、語り口がいいですよね。今まで取り上げた本もそうだけど、書き手によって文体がぜんぜん違う。
F:Eさんが「ですます調が混ざっていたけど引っかからなかった」と仰っていたように訳が巧い。ヨルバ語が混じった英語で書かれた原文も素晴らしいんでしょうね。
C:原文が読めたら、もっと楽しめるんだろうけれど。アゴタ・クリストフ悪童日記』もシンプル。
D:アゴタ・クリストフは母国語ではない言語で書いている。
I:シンプルと言えば、カズオ・イシグロもですね。