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『虚構推理』城平京(講談社文庫)

Zoom読書会 2021.03.20
【テキスト】『虚構推理』城平京講談社文庫)
【参加人数】5名

<推薦の理由(参加者E)>
この作品を原作とした漫画を読んでアイデアや構成、キャラクターが面白いと感じたので(アニメは未視聴)、原作小説を読んでみたいと思い推薦した。合う・合わないはあるかもしれないが、小説を書く上で勉強になるのではないだろうか。

<参加者A>
ライトノベルに近い推理小説は初めて読んだが、レベルが高く面白かった。いい加減な文章がなく、比喩も的確である。
ライトノベルの構造は決まっており、そこに嵌めこんでいくので量産できると創作の講座で聞いたことがある。
◆おどろおどろしいものを扱っているが、軽快に楽しげに、面白げに進んでいるので夢中で読んだ。
◆主人公・岩永のキャラクターがとても面白い。純文学と違ってキャラクターがはっきりしている(そぐわない行動をしない、予想外のことをしない、必要以上に掘り下げられない)。
◆最初、初版のカバーが鋼人七瀬だとわからなかったが、途中で気づき、イメージしやすくなった。
↓参考(初版のカバー)
https://www.amazon.co.jp/%E8%99%9A%E6%A7%8B%E6%8E%A8%E7%90%86-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%9F%8E%E5%B9%B3-%E4%BA%AC/dp/4062932407
◆いろいろなこの世ならぬ者たちが出てくる。喋り方、キャラが面白かったので、もっとたくさん出してほしかった。
◆面白くてたまらなかったのだが、第五章「鋼人攻略戦準備」からスピード感を失ったと感じた。漫画だと面白いと思うが、小説では読みにくく飛ばし読みした。理詰めでストーリーを組み立てていることの弊害ではないか。
九郎と七瀬が戦っている臨場感と動きを加えながら、スピーディに繋げていけばいいと思った。アクションの描写は一般的である。理詰めが好きな人であれば、なるほどと読めるのだろうか。
◆あやかしに興味がわき、民話を書きたくなった。

<参加者B>
◆作者はどちらかというと漫画やアニメの世界で名の知れた人。作品の半分ほどは漫画原作である。
↓参考(Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%8E%E5%B9%B3%E4%BA%AC
今の30代には、この作者の作品を浴びるようにして育ったという人も多い。Ex)『絶園のテンペスト』、『スパイラル~推理の絆~』etc.
◆作品そのものとしては、ライトノベルという枠組みとして見るとレベルが高い。
◆推理ものとしてライトノベルの文法があるが、それを少し崩している。
「主人公2人が活躍するパターン」はホームズとワトソンの変種であり、「天才的な探偵の少女とサポートの少年が活躍するパターン」は桜庭一樹GOSICK -ゴシック-』や西尾維新作品などにも見られる。
この作品も天才的で異能を持った少女とサポート的な少年に見えるが、探偵役の岩永同様、九郎もあやかし側であり、従来のパターンより転倒させている。
◆全体として転倒した構造が面白い。
◆この作品で目的となっているのは、「事件の解決」ではなく「意味のわからないものに、とりあえず誰かが納得する話を作ること」。真実は重要ではない。SNSに例えるなら、いいねの数、リツイート数を真実とする。それを作る過程を見せるのが、ストーリーテリングとして面白い。
◆常識的な昼の世界と、夜の世界(怪異)があるのを前提としている部分が面白い。話の奥行が生まれる。
◆小説『虚構推理』の英語タイトルはINVENTED INFERENCE(=発明された推理、人為的に作られた推理)。なお、アニメ版の英語タイトルはIn/Spectreという造語になっている。
◆『雨月物語』や、民俗学柳田国男が調べたものなど)を取り入れており、一眼一足など、そのままではアクが強くなりそうなものを、今風のファッションにすることでマイルドにしている。
◆主人公・岩永琴子が「人とあやかしの仲介役になるため生贄になった(=人柱)」という話である。人柱を十字路と同じ形である一つ目一本足にする、という話に取り入れたのが面白い。
◆スピード感に欠けるという意見があったが、第五章から敢えてストーリーを緩めているのかな、と思った。岩永がネットに書き込んだ部分(=ゴシック体の箇所)を読み飛ばしても話がわかるようになっている(というテクニックである)。そうすることで、漫画化、アニメ化の際に膨らませる余地を残している。

<参加者C>
◆面白かった。ライトノベルというより、特殊設定ミステリー(ありえないものを混ぜた上で読者が納得するような構成の作品)の一つとして読んだ。ex)今村昌弘『屍人荘の殺人』
◆従来型のミステリーではなく、いかに納得させて虚構の世界に導いていくか、というストーリー。それなりに推理も楽しめるが、推理小説の従来のかたちではない。
◆前半はきっちり論理的に組み立てられており、読者が疑問を持つであろうことを、ちゃんと説明している。
五章・六章は「ほんとにそうかな」と思うのだが、前半がしっかりしてるので、きっちり書いているのだろうと感じさせる。
◆本格推理は、仕掛けがバラ撒かれた細かい説明がある。Ex)エラリー・クイーン『ローマ帽子の謎』
読者は大変だが、きっちり書いておかねばならない。本格推理は慣れていないと読むのが大変だが、結論がわかってから読み返すと面白い。
◆入院していた従姉の名前が出てこないのは仕掛けで、後から登場するだろうなと思った。「六花」という名前が出てきたとき、ピンとくるかどうかが、この手の仕掛けに慣れているか慣れていないかだろう。
◆地の文が「琴子」ではなく「岩永」なのに違和感があったが(九郎、紗季は名前なので)、それもテクニックだろう。こういうことで読者を振り回してやろう、というような。使ってみたくなるテクニックだ。
◆人魚と件(くだん)の肉を食べて能力を手に入れたという設定は(果たして、そう巧くいくかとは思うが)、民俗学をうまく取り入れている。
◆鋼人七瀬は人々の想像力が作った怪物だという設定だが、ネットのまとめサイトは一本ではないので、いろんなタイプの鋼人七瀬が出てくるのではないかと思うが、都合よく作っているのが逆に面白い。
◆会話のやり取りがよくできており、面白い。笑わせられたり関心したりした。
◆場面によって視点が変わるが、きっちり書かれている。視点人物以外の心情が上手く書けるのだと思った(「なかろうか」をつけて、うまくひっくり返すなど)。
◆楽しめる要素が盛りだくさんである。誰もがそこそこ知っているようなことを取り入れて感心させるような題材の作品だ。

<参加者D>
◆あまり面白いと思わなかった。
◆主人公・岩永琴子のキャラクター(雨が降ったら眠くなる、など)や、九郎との会話、第二章での紗季への視点の切り替えは面白いと思った。
◆岩永と紗季がどう絡むのか、三角関係が青春小説のように非常によく書けている。
◆しかし、鋼人七瀬が出てきて面白くなくなった。最初が面白かっただけに残念だ。寺田が死んだところでクッションが上がり期待したが、自分の中では盛り上がらなかった。

<参加者E>
◆小説先行だが、メディアミックス前提に書かれた作品ではないかと思った。視点の切り替えなど、非常に映像的なので。実際、漫画を先に読んでいたが、まったく違和感がなかった。そのまま漫画のシナリオになりそうだと感じた。
最近の小説はメディアミックスを念頭に入れて書かれていることが多いのではないか(西尾維新貴志祐介の作品にもそのようなところを感じた)。
◆言葉を武器に相手を追い詰めていくところ、ミステリーと怪異を融合させているところは京極夏彦百鬼夜行シリーズを思い出すが、百鬼夜行シリーズが真相を明らかにしていき、言葉で怪異を解体していくのと逆に、こちらは怪異を虚構の真相で説明していく。
◆第五章以降、紗季が岩永の戦術に感嘆しているが、わたしはところどころ納得しかねた。犯人当てのようにわかりやすい決着があるわけではなく、大部分を納得させるというのが目的なので少々もやもやした(一応、「鋼人七瀬の消滅」というゴールはあるものの)。
◆「そんなに上手くいくかな」とは思うが「九郎/立花さんの能力があるし」で逃げられる設定がずるいと感じた(悪い意味ではなく)。
◆発想とスピード感はとても面白い。プロットも綿密で、ものすごく練られていると思った。
◆物語の可能性、危うさ、恐ろしさみたいなものを感じて、ストーリーとしては好き。
◆実在の七瀬かりん(春子)の真相が気になったが、そこを書くと本筋からずれるし、この作品では蛇足になるのだろうなと思う。

<フリートーク
◆メディアミックス前提ではという意見に:映像にしても映えるがゲームにもできる作り。
戦いのシーンを論理的にするなど、『逆転裁判』などを意識した作りである。若い読者は読んだとき、『逆転裁判』が浮かぶのではないだろうか。
最近、「小説の続きはゲームで」ということもあるので、そこを見越しているのかも?
◆分岐を設けて、別のバージョンが出せる作り。
◆だからこそ、小説だけを読んだら物足りないこともあるかもしれない。
メディアミックス向けに余白を作っているので。
たとえば小説では、寺田が殺害されたところは詳しく書かれないが、アニメでは目撃した妖怪の視点で詳しく描かれている。
◆また、作中で出てくる七瀬かりんの曲は実際に作られ、配信されている。
↓参考(公式YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=39bDpBDWDYM
◆キャラクターがメインではあるが、論理の丁々発止が主人公、のようなところはある。
◆小説では読みづらかった五章や六章も、映像化したら場面として映えると思うので、スピード感などは解決できると思った。
◆理不尽な殺され方だが恐怖がない。⇔主人公の岩永がすべて構造を把握している。岩永がわからないことがあればおどろおどろしくなるが、彼女が理屈を知っているので怖くない。紗季や寺田を除いて、主要登場人物のほとんどが闇の世界の住人なので。
◆鋼人七瀬は元・アイドル(=崇め奉られる偶像的な存在)。それと対する岩永も、ある種あやかしのアイドルのようなものである。→アイドルvsアイドル
かたやアイドルのコスチュームで顔がない鋼人七瀬、かたや一眼一足で特徴的かつ絵的に映える。
◆真実はどこまでも闇の中なので、ほかの可能性は残っており、解決が怪しいと言える余地も残っている。また、それゆえに同じ筋書きで展開を変えて出すことも可能である。
◆まったく理詰めではないが、理詰めであるかのように書かれている。虚構が構築される可能性が書かれているだけである。岩永のネットへの書き込み部分(ゴシック体の箇所)だけを読んだらおかしい。
◆名前に数字が入っているのも考察しがいがある。たとえば九郎の「九」を漢字辞典で調べると「行き止まり」や「切断」という意味があり、『生物として究極の行き詰まり』を表しているのかもしれない。
また、鋼人七瀬の「七」にも「切断」という意味がある。
岩永琴子は「十」=十字路に捧げられた生け贄だろうか? 十字路には呪術的な意味合いがあり、十字と同じ形のものを立たせたり、西洋では教会・韓国では祠が建てられていたりする。また、吸血鬼が出ないよう、十字路に灰を撒くことも。→十字路は異界と繋がっているという考え:岩永琴子は境界針であり、だからこそヒロインになりうる
◆鋼人七瀬について:ネット上の無数の意見が一つの声を作って現実を動かしていく恐怖。
フェイクニュースのように、根も葉もないけど、それなりに理屈の通るような話から暴動などが起こり看過できない状況になることの恐怖。
この作品でいう「怪物」とはそういうものであり、だから岩永はそれを止めなければならない。