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R読書会/Zoom読書会

『燃えつきた地図』安部公房(新潮文庫)

R読書会 2015.07.04
【テキスト】『燃えつきた地図』安部公房新潮文庫

とにかく結末に驚かされる作品。『砂の女』『他人の顔』と共に失踪三部作とされ、ポストモダニズム的作品として知られている。
以下、読書会で出た意見を簡単にまとめる。

<作品のテーマなどについて>
◆今までのような小説の読み方をしていたのでは見えてこない人間関係の曖昧さを感じた。遠くにいると思っていた人間が近くになり、逆に、近くにいると思っていた人間が遠ざかっていく。
◆主人公(語り手)である探偵と周囲の人間たちの関係の希薄さ。
◆高度経済成長の時代が舞台であるが、登場人物たちはいずれもそこから取り残された者たちである。そういった人々を掬い上げる作品。
◆人と人との出会いによる化学反応を描いている。相手との関係性によって変化する人間(個人)というものは曖昧である。関係性によってアイデンティティーが発生するが、自分そのものは非常に不確かなものだ。関係性の中でしか人間は描けない。

<人物造形や構成、ストーリーなどについて>
◆主人公である探偵以外の登場人物の輪郭ははっきりしているが(ステレオタイプであったり画一的であったり)、探偵自身の人物像は見えてこず、掴みどころがない。
◆探偵を主人公にしつつ、失踪した根室洋を描いている?
◆登場人物の対比。(掴みどころがない)探偵や根室波瑠←→(人物としてはっきりしている)探偵の別れた妻など
◆探偵が登場する小説でありながら、謎解き要素をすべてうっちゃってしまっている。探偵小説ではなく、その対極に位置する小説である。
◆探偵自身が根室洋(=失踪すること)に近づいていき、ラストで彼と同一になる。

<技術的な面について>
◆色の使い方が面白い(レモン色のカーテン、黒い服など)。
◆ただ情報を出すための会話ではなく、相手の内面を炙り出す会話である。
◆比喩表現の見事さ。
◆印象的な矛盾形容(ex.「迷えない迷路」)。
◆P359以降のために、そこにいたる過程をじっくり書き込んでいる。P359以降は、原稿用紙換算600枚ほどの作品のうち、50枚程度であり、そこに純文学エキスが抽出されている。

<作品を読んで感じたことなど>
◆「鎖された無限」を感じた。
◆結末には、穴の開いた段ボールに光が差し込んできたような印象を受けた。
◆現代を舞台に、このような作品を書いたらどうなるのだろうか。現代では、監視カメラやGPS、インターネットなどにより、この作品が書かれた時代よりも、痕跡を残さず失踪するということは難しいのでは。
◆この物語は、誰にでも起こり得ることとして描かれている。

フリートークの「もしいま映像化するなら?」という話題で盛り上がったのがとても面白かった。
また、テキストから受ける人物の印象が共通していたり、人それぞれだったりしたのも興味深い。